梅雨が明け、いよいよ夏本番。毎年「今年こそ夏バテしないぞ」と思いつつ、気づけばぐったり……という方も多いのではないでしょうか。
今回は、清代(1882年ごろ成立)の中国伝統医学書『時病論』(著者・雷豐)を読み解きながら、7月・8月にありがちな体調不良と、その予防のヒントをまとめてみました。
「夏の不調=暑さのせい」とは限らない
『時病論』が面白いのは、夏の病気を「陰暑(いんしょ)」と「陽暑(ようしょ)」の2つに分けているところです。
陽暑:炎天下で農作業や長距離移動をするなど、体を動かして暑さに直撃されるタイプ。大量の汗、強い発熱、のどの渇きが特徴。
陰暑:涼しい建物の中や扇風機の風に当たり続けるなど、"涼みすぎ"で発症するタイプ。悪寒、汗が出ない、関節痛などが特徴。
著者の雷豐は、当時から「暑気あたりの8〜9割は陽暑ではなく陰暑だ」と指摘しています。現代で言えば、屋外の炎天下より、効きすぎたエアコンの部屋と外気の温度差で体調を崩す人の方が多い、というイメージに近いかもしれません。
養生のヒント:冷房の設定温度を下げすぎない、冷たい飲み物・食べ物を摂りすぎない、といった昔ながらの「涼みすぎ注意」は、意外と的を射ているのかもしれません。
夏バテ(疰夏)は「季節の変わり目」に起きる
『時病論』には「疰夏(ちゅうか)」という、いわゆる夏バテを指す病名も出てきます。
原文の説明では、春から夏への変わり目、日照時間が急に長くなり気温が上がる時期に、めまい・頭痛・体のだるさ・足の脱力感・食欲不振・あくび・自汗(じっとしていても汗が出る)といった症状が出るとされています。
養生のヒント:本格的な猛暑になる前の「季節の変わり目」こそ、無理をせず、こまめな休息と規則正しい食事を心がけたいタイミングです。放置すると慢性的な体力低下につながる、とも書かれています。
お腹の不調(霍乱・下痢)に要注意
『時病論』では、夏から秋にかけて「霍乱」と呼ばれる、激しい嘔吐と下痢を伴う病気について詳しく述べられています。原因として挙げられているのは、
生ものや冷たい飲食物の摂りすぎ
気候の急変(風・寒・暑・熱が入り混じる)の2つ。
症状の重さによって胃側(嘔吐が中心)、腸側(下痢が中心)、両方(嘔吐と下痢が同時)に分かれ、重症化すると手足が冷たくなり脱水症状のような危険な状態になる、とも記されています。
養生のヒント:夏場の食あたり・冷たいものの摂りすぎへの注意は、現代の食中毒対策とも重なる部分があります。冷蔵庫の過信は禁物、というのは今も昔も変わらないようです。
梅雨明け直後の「ジメジメ」対策(霉湿・穢濁)
7月上旬〜中旬、梅雨明け前後の時期については、「霉湿(ばいしつ)」という病名で説明されています。雨が降ったりやんだりを繰り返し、暑さと湿気が混ざり合う時期に、胸のつかえ、腹部の不快感、発熱、吐き気などが起こりやすいとされます。
さらに、蒸し暑さと汚れた空気が重なる状態を「穢濁(わいだく)」と呼び、頭痛・胸苦しさ・吐き気などの症状が挙げられています。
養生のヒント:換気を心がける、湿気がこもりやすい時期は特に体を冷やしすぎない、というシンプルな対策が、この時代から意識されていたようです。
今の養生が、秋の体調を左右する?
『時病論』の考え方のひとつに、「夏に受けたダメージが、秋になってから症状として出てくる」というものがあります。実際、本書の巻五では「夏傷於暑、秋必瘧(夏に暑さで傷めば、秋に瘧疾=周期的な発熱を伴う病気になる)」という一節が紹介されています。
たとえば「暑瘧」という病気は、夏に涼を求めすぎて汗をかかず、暑気が体の中にこもったまま秋の涼しい空気とぶつかることで起こる、と説明されています。
現代的に言い換えると「夏の間の生活の乱れ(冷えすぎ・食べすぎ・寝不足など)のツケが、季節の変わり目にどっと出る」というのは、経験的に感じたことがある方も多いのではないでしょうか。
まとめ:7月・8月の養生ポイント
冷やしすぎに注意:エアコン・冷たい飲食物はほどほどに(陰暑対策)
炎天下では油断しない:こまめな水分補給と休息(陽暑対策)
季節の変わり目は無理をしない:疰夏(夏バテ)は梅雨明け前後に起きやすい
食あたりに注意:生もの・冷たいものの摂りすぎに気をつける(霍乱対策)
湿気対策も忘れずに:梅雨明け直後は換気と体調管理を(霉湿・穢濁対策)